世界一周の夢と、求人誌の一番後ろ
大学3年の終わり、私は休学届を出しました。
理由はひとつ。世界一周旅行をしたかったからです。
中学のころから近所の古本屋で100円で買ってきた落合信彦の本を読んでいて、海外への憧れが漠然とあったんです。米軍のフリーマーケットで買い物するために英語を独学で学んでいたこともあり、英語にも抵抗感はありませんでした。
また私がいた学部(人文学部・国際社会コース)は、半分以上の学生が1年間の交換留学や2-3ヶ月の短期留学に行くような環境でした。周りが次々と海外へ旅立っていくのを見て、羨ましいなーとは思って悶々としていました。
でも正直に言うと、勉強は嫌いでした。受験前の数か月以外まともに勉強したことすらありません。世界史のように好きな科目はすっと頭に入るのですが、全般的に勉強するのが苦手で。留学するにはお金もかかるし、モチベーション的にも「うーん」という感じでした。
そこで出た結論が「だったら世界一周行ってみよう!」でした。留学より面白いし、自分らしい気がしました。
でも旅行費用がありません。青森の大学にいたころ、バイトはほとんどしていませんでした。地方だから時給も良くないし(当時は時給700円台がざら)、何より毎週決まった予定が入るのが嫌だったんです。 自由に動きたい人間でした。(とはいえ、特に有意義なことをするでもなく友達と飲んでばっかり。夏休みは引きこもってゲームばっかり。)
「手っ取り早く大金を稼ぐ方法はないか」と探していたときに目に入ったのが、求人誌の一番後ろにでかでかと1ページ丸ごと載っていた期間工の募集広告でした。でっかい文字で給料と寮費無料が書いてありました。
今でこそ「期間工JP」とか「ジョブハウス」といった紹介会社経由で応募して入社祝い金をもらうのが常識ですが、当時の私はそんなことを知りませんでした。メーカーに直接応募して、各都道府県で月に何度か開催されていた面接会へ足を運びました。
今思えば、紹介会社経由にしていれば当時でも数十万の祝い金があったはずです。 知らないということは、損をします。これが期間工での最初の教訓でした。
4月、愛知へ。受け入れ教育4日間
休学がスタートした4月、すぐに愛知へ向かいました。
どこの期間工も同じですが、トヨタも入社後すぐに現場に放り込まれるわけではありません。まず受け入れ教育(研修4日間)があります。
内容はこんな感じです。
- インパクトレンチの使い方
- ネジの効率的な締め方
- 安全教育の座学
今でもなぜか覚えているのが「ねじの両手締め」です。
研修中に「みんなでネジをどれだけ速く締められるか試してみよう」という場面がありまして。各自やってみた後に、教育担当の人が「こうやったらもっと速いよ」と実演してくれたんです。
両手で同時に締めると、片手より断然速い。「おお、なるほど」という感じでした。そこまで大げさな話ではないんですが、工場の現場仕事にはいろんなテクとコツが積み重なっているんだなと、そのとき初めて気づきました。
高岡工場 組立ラインへ配属
研修4日間を終えると配属先が決まります。いわゆる「配属ガチャ」です。ドキドキしながら班長に連れられて職場に向かったのを覚えてます。
私が配属されたのは高岡工場の組立ライン。担当工程はエキゾーストパイプの組み立てとテールパイプの組付けでした。
作業の流れは大体こんな感じ。2分割されたエキゾーストパイプが、自動操縦の台車に乗って自分の持ち場まで運ばれてきます。 それを台にのせてインパクトレンチで締め付けて1本に繋げ、O2センサーを取り付けて、最後にめっちゃ硬いみかんサイズのでっかいゴム(間違ったのを付けると外すのめっちゃ大変)を取り付けて、次の工程に流します。そのあとにテールパイプの車体への仮付けをします。
失敗してもなにしてもラインは止まりません。決められた時間内に終わらせないとラインを止めることになり、全工程に迷惑がかかります。最初の1ー2週間は、ラインのスピードについていくだけで精一杯でした。
ばね指と、申告という選択
2ヶ月ほど経ったころ、異変に気づきました。
朝起きると、指が曲がったまま動かないんです。 無理やり伸ばそうとすると途中で引っかかる感じがして、力を入れてのばそうとすると「カックン」って感じで伸びるんです。
ばね指です。
医学的には「弾発指(だんぱつし)」とも呼ばれる腱鞘炎の一種で、指の腱を包む腱鞘が炎症で厚くなることで起きます。同じ動作の繰り返しで腱鞘に負担がかかり続けた結果です。症状は朝方が最も強く、日中に指を動かしていると少し楽になりますが、進行すると曲げ伸ばしのたびに「ばね現象」が出るようになります。

当時の私は正直に申告しました。
受入教育の時に、ちょっとでも異常があったら速やかに申告しなさいと何度もうるさく言われてたし、全然バイトなんてしたことなくて、製造業の本音と建て前なんて知らない世間知らずでアホな学生だったからです。第一3か月の出稼ぎで来てるピチピチの学生なのに、後遺症とか残ったらシャレになりませんし(笑)
その結果、ラインから外され、仕事をさせてもらえなくなりました。給料は変わらず出るのですが、掃除くらいしかやることがありません。上司からはいろいろきつい言葉も言われました。(いまだったら軽いパワハラですw)産業医に見られたときは「その工程でばね指になんかなるんだ笑」とかめっちゃ馬鹿にした感じで言われ、会社の外の病院にも連れていかれ、診断書を書かれました。そのときやたらその病院の医者のジジイが「切れば楽になるよ!いつでも切ってやるよ!」とか言ってきてマジでビビってました。^^;
今だったら絶対に申告しません。 そのうち治ると知ってるので、騙し騙し働きます。労働者として正しいかどうかは別として、申告が自分の居心地を悪くしたのは事実でした。
3ヶ月満了、手元に100万円
職場での居心地はなかなか悪く、上司と一部の先輩にも嫌われながら、私は3ヶ月を無事に満了しました。
手元に残ったのは約100万円。 トヨタ期間工は寮費・光熱費が無料です。食費は自己負担ですが、寮の食堂が安いのでほとんど使わずに済みました。田舎の大学生が3ヶ月でこれだけ貯めるのは、アルバイトでは絶対無理です。期間工の凄さをこのとき初めて実感しました。
で、世界一周はどうなったか
100万円を握りしめ、私はアジアへ旅立ちました。
その前の年にも2週間くらい東南アジア一人旅をやっていたので、そっからスタートしようと思ったのです。
世界一周の予定だったのに、気づいたらカンボジアで3ヶ月沈没してました。
カンボジアのローカルKTV(日本でいうキャバクラ的な)に仲良くなったトゥクトゥクの運ちゃんを連れて毎日通い続けて散財した結果、100万円が50万円になりました。そうこうしてる間に、まあいっかみたいな気持ちになって、世界一周は実現しませんでした。でも後悔はしていません。カンボジアで過ごした3ヶ月は、日本の大学生活では絶対に得られない経験だったとポジティブに捉えています。
まとめ:大学生が期間工をやるなら知っておくべきこと
① 紹介会社経由で応募すること メーカー直接応募は入社祝い金がもらえません。今なら数十万円の差が出ます。
② ケガは申告の前に対処法を調べること 申告したら仕事を取り上げられました。テーピングや湿布で対応しながら働き続けるのが現実的な選択です(もちろん自己責任で)。
③ 大学生・休学中でも採用されることがある(ケースバイケース) 私のときは採用されましたが、たぶんなかなかないと思います。時期やメーカーや採用担当者によって異なると思います。事前に確認が必要です。
④ 3ヶ月で100万円は現実的 寮費・光熱費が無料なので、生活費をほぼかけずに貯められます。
この記事はトヨタ高岡工場で実際に働いた管理人・マッツーの体験談です。

コメント